日本政策金融公庫融資の全体像

創業期、成長期、事業再生、事業承継等様々な状況で資金調達が可能なのが日本政策金融公庫です。 そこで今回は、日本政策金融公庫融資の全体像を解説します。

1. 大枠の流れ

最寄りの日本政策金融公庫の相談係へ行き、相談します。

借入申込書や事業計画書といった申請書類を受け取ります。

下記資料を記入後、郵送申込みします。

  • 借入申込書
  • 事業計画書
  • 見積書(設備資金の申し込みの場合)
  • 登記簿謄本、履歴事項証明書(法人の場合)
  • 不動産の登記簿謄本、登記事項証明書(担保を考えている方の場合)
  • 生活衛生同業組合の振興事業に係る資金証明書、都道府県の推薦書(生活衛生の事業の場合)

申込みしてから1週間後面談が行われますが、事業計画書をベースに面談になります。

 

(提出書類の内容はしっかりと把握しておく必要があります)

  • 事業計画などについての質問です。
  • 準備して頂きたい資料は、計画についての試算、負債のわかる書類です。
  • 店舗や工場も視察します。
  • 事業計画を様々な角度から検討して、結論を出します。

面談終了日の1週間後くらいに結果が通知されます。

融資を受けることができても自分の希望する額に届かない場合がありますので注意が必要です。

2. 「制度融資の流れ」

  • 金融機関を決めましょう。地方銀行・信用金庫からの融資をお勧めします。
  • 決めた金融機関の相談係と制度融資についての相談をします。
  • 事業計画などの申請書類を金融機関または開業事務所の地域を管轄している信用保証協会を経由して申し込みます。
  • 申請書類は管轄の信用保証協会で審査されます。
  • 書類審査に無事通れば、信用保証協会の担当者が開業先まで出向き、簡単な調査を行うと同時に面談します。
  • 問題ないと判断されれば、信用保証協会から金融機関に対して「信用保証書」が送られます。
  • 信用保証協会が保証人になってくれることを了解したことになります。
  • 金融機関は信用保証書を踏まえた上で審査を行っていきます。勘違いしやすいのが、信用保証書がおりたからといって、融資が受けられるわけではありません。
  • 審査終了後、金融機関から審査結果が通知されます。
  • 融資が受けられるのか否か、受けられる金額もこの時点でわかります。

3.日本政策金融公庫と制度融資に共通する必要書類

  • 借入申込書
  • 企業概要書
  • 事業計画書
  • 2期分の決算書
  • 設備資金の申し込みの場合は見積書
  • 法人の場合は登記簿謄本
  • 納税証明書
  • 源泉徴収の写し
  • 通帳

4.金融機関が最初に確かめるチェックポイント

  • 損益計算書

売上高が言うまでもなく開業当初から伸びている方が融資を受ける際に有利であることに間違いありません。売上高に対する原価の割合が非常に重要になってきます。金融機関が融資を行うことによって原価の割合が改善できるのであれば、プラス材料になります。

 

販売管理費は、代表者の給与設定に関してのチェック、減価償却を限度額までしっかり計上しているかのチェック、適切な支払いを行っているかのチェックなどが販売管理費の項目から確認されます。

 

 

  • ・貸借対照表

貸借対照表とは、ある時点での会社の財産を表わす一覧表です。

会社の資金だけでなく商品や店舗などの不動産も財産の中に入ってきます。

貸借対照表には財産だけでなく負債についても確認できますのでそのバランスが非常に重要になってきます。

貸付金

 

 会社から社長などに対して貸付がないかを確認します。仮に貸付がある場合は、清算することをお勧めします。

仮払金と仮受金

 

仮払金と仮受金で未精算がある場合はきっちり対応して清算しておく必要があります。

棚卸資産

 

棚卸資産とは、営業において販売を目的として所有する資産のことで、商品や製品等のことをいいます。ここで金融機関側から確認されることはどのくらいの期間、在庫を所有しているのか、不良在庫、架空在庫はないか、在庫数をしっかり把握しているのかなどがチェックされます。これらのことにしっかりと対応できるようにしておかなければなりません。

固定資産

 

固定資産とは、長期にわたって使用することにより会社の利益につながる資産のことです。固定資産で重要なのは、法律で定めてある限度額までの減価償却を行っているかの点になります。

⑤預り金

 

源泉徴収税や社会保険料などで支払日を過ぎているものを預かっている場合は融資がでませんので、清算しておく必要があります。

⑥短期借入金と長期借入金

 

すでに借入金がある人は、その借入先に対しての返済状況や返済期日、またこれからの返済能力などを確認されます。

5.債務者区分

債務者区分とは、金融機関が定めるマニュアルに従って、融資企業に対してランク付けを行ったものです。

この債務者区分は五段階にランク付けされており、上から正常先、要注意先、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先となっています。

現状、融資を受けることができるのは「正常先」となっています。

まれに「要注意先」の企業でも融資を受けることができますが、正常先以外は厳しい状況と言えそうです。従って債務者区分を意識した準備が必要になってきます。

6.決算の重要性

債務者区分のランク付けにあたって、決算書の内容は非常に重要になってきます。

決算書の内容から分析してランク付けを行うことを定量的分析といいます。

この分析からの結果が債務者区分のランク付けにおいて8割位占めてきます。

残りの2割は定性的分析といい経営者の人間性、市場の動きなどから判断されます。

しかし、言ってもたかが2割です。やはり重要になってくるのは決算書の内容になってきます。毎日の記帳をおろそかにせず、財務の動きは細かくチェックする必要があるでしょう。

税理士任せのやり方や数か月分をまとめて行うような記帳の付け方では金融機関が求めている決算書を作れませんので、毎日の努力を怠らないようにしましょう。

7.資金繰り表の重要性

資金繰り表とは毎日の現金の収入と支出の流れを確認するための表です。

会社の損益状態を表す損益計算書は、売上や仕入が発生した時点で計上するため、売上=現金回収とはいかず、損益計算書ではうまくいっているように見えても、現金の回収がなければ資金繰りは厳しくなってきます。

このような状況を避けるために、資金繰り表によって、現金の流れを把握し、それを元に計画を立てていきます。

 

また、資金繰り表は金融機関からの融資を受ける際に、必ず必要になる書類です。

この資金繰り表を見て金融機関の担当者はいくらお金が必要そうなのか、なぜ必要になったのかなどの経緯を元に判断をします。

最低でも6ヶ月分の資金繰り表は用意したい所ですので、こちらの方もしっかり記入していきましょう。

8.よくある質問Q&A

Q.金融機関側が行う、自己資金の確認方法は?

 

A.自己資本の確認は、通帳の原本で行います。それは、自己資金がどのような形で準備されたのかを確認したいからです。残高だけチェックであれば、前日に友人などからお金を借りて自分の口座に振り込めば、その場は自己資金に問題がないということでパスできそうですが、これは自己資金とカウントされませんので注意して下さい。

Q.融資を断られた場合、再申請が可能なのか?

 

A.融資の再申請は可能です。ただ、融資を断られるということは、すぐに改善することが難しい何らかの問題があるために断られます。例えば、自己資金の問題や事業計画書などがそうです。従って、再申請を行うのであれば、最低でも半年以上の期間をかけて問題点を改善していく必要があります。

Q.新規開業者が融資を受けるための必要な自己資金額とは?

 

A.新規開業者が日本政策金融公庫からの融資を受ける際には、総事業費の3分の1以上、自己資金として準備しなくてはいけません。

総事業費の3分の1と言うと少しイメージしにくいかもしれませんが、借入希望額の半分は自己資金で準備することになります。500万円が希望額ですと、250万円の自己資金が必要となるわけです。

Q.会社設立して2期を過ぎた場合、新創業融資が可能なのか?

 

A.2期を過ぎた場合は、新創業融資を利用することはできなくなります。

しかし、日本政策金融公庫には普通貸付、シニア起業家資金などの制度がありますので

これらを利用していくことになるかと思います。

留意点は、新創業融資と異なり、原則、担保や保証人が必要となってきます。

もし、担保や保証人が準備できない場合は、「第三者保証人を不要とする融資」の制度を利用することになります。この制度を利用するには、法人であれば代表者の保証が必要になり、個人であれば、その個人は債務者として扱われます。

Q.会社名義での借入の際は代表者しか保証人になれないのか?

 

A.会社名義での借入の場合、代表者以外の役員が保証人になるのも可能です。

しかし、これには条件があり、その保証人となる役員が役員報酬以外の収入があることや代表者と同居していないことなどの条件を満たしていなければなりません。

Q.外国人でも融資を受けることは可能なのか?

 

A.外国人が日本の会社で代表取締役となって働いているケースもあります。

このような外国人でも日本政策金融公庫から融資を受けることは可能です。その外国人が会社経営できる在留資格があれば問題ありません。

Q.制度融資と日本政策金融公庫の両方に申請することは可能なのか?

 

A.両方に申請することには何の問題もありません。

よくあるケースとして、日本政策金融公庫からの借入を断られて、制度融資を申請するパターンや、日本政策金融公庫からの借入はできたが満額下りなかった場合に残りを制度融資から引っ張ってきたりします。

Q.返済期間はどのくらいなのか?

 

A.日本政策金融公庫の返済期間に関しては、運転資金の借入であれば5年、設備資金の借入であれば10年なります。審査ではこの期間で返済能力を問われてきます。

9.注意事項

  • 金融・保険業の一部を会社目的に入れてしまった場合

日本政策金融公庫、信用保証協会の両方が金融、保険業の一部を禁止事業と定めています。

知らなかったではもちろん通用しませんので、注意しましょう。

  • 各金融機関が定めている条件を守らなかった場合

日本政策金融公庫であれば、融資を申請する条件として創業資金の3分の1以上の自己資金が必要であるといったことや、開業後2期分の税務申告が終了しているものは、融資の対象外になりますので注意しましょう。

  • 運転資金、設備資金以外の理由で融資を必要としている場合

日本政策金融公庫と制度融資が融資を行う対象者は、事業にあたっての設備資金や運転資金に困っている方を対象としています。

法人を設立するための資本金や生活費などといった融資対象外の理由では融資は受けられませんので注意しましょう。

  • ノンバンクから借入をしている場合

サラ金やカード会社などのノンバンクから借入している人は、政府機関からの融資は難しくなってきます。理由としては、返済能力を疑われます。ノンバンクは金利が高いため、そのような所から借入している企業が、今後しっかり返済してくれるのかは疑われても仕方ありません。それに通常そのような金利が高い所からの借入は避ける所ですが、避けられない何らかの理由があったとみなされ経営者に対してのイメージは非常に悪いと言えます。