終活ビジネス研究会(代表:小泉悟志)は、2023年の日本におけるエンディングビジネスの市場規模を「家族形態の変化」「葬儀に対する意識の変化」などを背景に、2.1兆円(2017年比で19%増)と予測した。また、今後のエンディングビジネスは、葬儀及びそれに続く関連ビジネス(お墓、仏壇、法事等)だけでなく、増え続ける高齢者をターゲットとした「トータルライフ・コーディネート」に拡張していくと考えている。
(1)死亡者増加に伴う葬儀件数の変化
総務省「国勢調査」および厚生労働省「人口動態統計」によると、日本の総人口は今後も減少の一途をたどる中、死亡者数は2040年まで増加が続くと予想されている。そうした背景を受けて、葬儀の件数は増え続けていくと考えられる。
(出典:総務省「日本の統計2019」を元に終活ビジネス研究会にて試算)
(2)葬儀は、“コンパクト”で“シンプル”な家族葬・直葬が主流となりつつある。
これまでの葬儀は、故人が生前から関わりのあった仕事関係者や友人などに加え、家族の知人や近隣住民など多くの方々に訃報を知らせ、葬儀に会葬いただくスタイルが一般的であった。
しかし、近年では葬儀スタイルに変化がみられている。日本は、長寿化がさらに進み、「100歳まで生きる時代」に突入してきている。高齢になれば、要介護や認知症を伴うことも多く、かつての友人・知人との関係も薄れていく。
また、葬儀についての意識は、親は自身の葬儀について「子供に迷惑をかけたくない」「お金をかけなくてよい」という考えが強く、子は「家族・親族だけでしっかり見送りたい」と考えている。そうした意識を背景として、葬儀を行う際には、遺族やごく親しい人だけで行う「家族葬」が好まれるようになり、今後もその傾向は加速するとみられる。
特に、核家族での生活が多く、地域住民との関係が一般的に希薄になっている都市圏では、その傾向は強いだろう。
さらに、生涯未婚者の増加、熟年離婚の増加などを背景として、一人暮らし高齢者の増加も進んでいる。「孤独死」の問題は、今後ますます深刻なものとなっていくだろう。そのような故人を弔う形態として、遺体を24時間安置後に火葬する「直葬」も増え続けていく。
上述のような背景と、「形式的な葬儀に多額の費用をかけるより、シンプルでコンパクトな葬儀で適度な費用に抑えたい」との心理的変化も相まって、葬儀一件あたり単価の低下傾向は今後も強くなっていくと予測される。
(3)葬祭ビジネス市場の予測
以上のような背景から葬儀事業については、単価は下落の傾向が続くものの、葬儀件数は増加し、さらに、終活ビジネス研究会では、社会の変化に応じた葬儀関連の新規ビジネスの拡大余地が大きいと見ており、冒頭の市場規模予測を算出した。
日本における高齢化のますます進展に伴い、高齢者層のライフスタイルの変化や葬儀・エンディング活動に対する価値観の変化が現れつつある。そうした背景を受けて、葬祭事業者にとって新たなビジネス領域を模索できる時代に入ってきたものと考えられる。
(1)平均寿命の伸長に伴うシルバーライフの充実
高齢化とともに健康年齢も高まりつつある。自身のエンディング活動に向き合う高齢者が増えつつある一方、健康増進への取り組みや地域コミュニティへの参加に対する関心も高い。そこで、セレモニーホールにおいて、カルチャースクール、健康体操、食事処などの提供も併設することで、サブビジネスとしての収益源とすることに加え、日ごろからホールへの親しみを持ってもらい、自身の葬儀の事前申し込みにつなげる効果も期待できる。
(2)葬儀後のアフターサービスの充実
人の死亡に伴って発生する事項は葬儀以外にも数多くある。墓地への埋葬や仏壇など供養に関わるものついては従来から葬儀業者がアフターフォローとして手掛けることは多かった。しかし、それ以外にも、自治体への手続き、遺品整理、相続、不動産売却、税務、保険など山積みであり、遺族の時間的な余裕の無さや知識・ノウハウの不足によって対応に苦慮していることが多い。こうした分野についてもトータルライフ・コーディネートのニーズは大きいものとみられる。
(3)新しい供養スタイルの登場
葬儀の小型化は、けっして故人への思いが軽薄になったものではなく形骸的な儀礼を避けて、ごく近親者での葬儀を重視する表れと受け取れる。葬儀後も身近な空間で故人への想いを持ち続けていきたいとの新しい供養が広がりつつある。