一般社団法人東京都中小企業診断士協会「終活ビジネス研究会」(代表:小泉悟志)は、全国の過疎地に存在する約30,000の仏教寺院を取り巻く経営環境は今後ますます厳しくなると予測し、生き残りのために取るべき戦略について、令和2年6月15日に発表しました。
2014年に行われた国土交通政策研究所の勉強会において、研究機関である日本創成会議が「出産する女性人口が半数以下になる“消滅可能性都市”」を示し、2040年には全国の約半数がこれに該当するとの予測を発表した。現在、全国に17万超の宗教法人が存在するが、そのうち約35%は“消滅可能性都市”に所在している。現状においても、過疎地における寺院の年収は、30~40%が年収300万円以下という苦しい経営状況にある。人口減や過疎化が進む中、寺院の存続はますます厳しい環境に直面するであろう。
(出典)国土交通政策研究所「政策課題勉強会」資料
(出典)高野山真言宗:高野山大学密教文化研究所紀要(第32号)
浄土宗:浄土宗「宗観」2014年6月号
寺院は地元の檀家によって支えられているが、檀家の世代交代が進むにつれ、都市部への移住や核家族化が増加し、菩提寺と檀家との関係が希薄化の一途をたどっている。接点と言えば、年忌法要やお彼岸・お盆法要だけにとどまることが多く、寺院側からの積極的アプローチもそう多くないのが現状とみられる。
では、檀家側から、寺院とりわけ僧侶に対して何を求めているか。浄土宗総合研究所が2009年に行った調査によると、第一位(50.9%)は「人徳の高さ」、第二位(44.7%)は「上手な法話」、第三位(43.9%)は「親しみやすさ」などが、多い回答として挙げられている。
一方、寺院側は、これらの要望にどう応えているか。高野山真言宗和歌山宗務支所が2017年に行った法話の実施についてのアンケートによれば、「葬儀で64.9%、法事で19.0%において法話を行っていない」との回答となっている。寺院と檀家の関係性の希薄化という点において、住居移転による物理的距離が生まれたことだけが理由ではなく、檀家側の要望に対して寺院が応えられていないという状況も少なからず影響していると考えられる。
当研究会では、総務省が地域づくりの担い手として示す「定住人口」「交流人口」「関係人口」の概念を用いて、過疎地の寺院が取るべき生き残り戦略を4段階のステップで提言する。
第1ステップ:寺院経営の基礎確立(宗教家の素養、運営管理基盤、IT化等)
第2ステップ:「定住人口」との関係強化(重要行事の充実等)
第3ステップ:「関係人口」の取り込み(地元外檀家とのコミュニケーション)
第4ステップ:「交流人口」へのアプローチ(観光資源やお寺体験等の活用)
過疎地の寺院の生き残り戦略
※総務省 「関係人口」ポータルサイトから引用し、当研究会で加筆